鼻唄クラシック


珍妙な一夜

 先日、コー・ガブリエル・カメダという若手ヴァイオリニストのコンサートを聴きに行った。場所は京都の「府民ホール・アルティ」。
 私の勤務先は大阪なので、京都まで行くには時間がかかる。19時開演のところだったが着いたのは19時8分頃。曲は始まったばかりで、まあなんとか間に合ったと安堵していたら、モギリの女性が「曲の途中なので、1曲目が終わるまでロビーでお待ち下さい」と言う。ここで私は困ってしまった。
 この演奏会はブラームスのヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会で、1曲目の第1番ソナタが終わるまで外で待たされていたとしたら、コンサートの3分の1を聴き損ねたことになる。私は「これは第1楽章が終わったら、すぐに入れということなんやろうな」と思った。だってそうではないか。私の場合はたまたま頂き物のチケットだったが、お金を払って聴きに来たからには全曲聴く権利があるはずである。主催者側の都合で途中入場を許さないなんて無茶は聞いたことがない。
 私より少し遅れて来た妻とともに待つ。ロビーに置かれているテレビとスピーカーから流れる演奏に注意を払ってると遅れて来た客の中には何やら記念写真をとっている人がいた。なんなんだ、この客は。で、第1楽章が終わったので、さあ入ろうとホールに続くドアを開けようとしたら、モギリの女性が「曲の途中で入らないで下さい!」と止めるではないか。結局40分間の演奏が終わるまで壁1枚隔てた外で待たされるという理不尽な仕打ちにあったわけだ。もし私が券を頂いて来たのでなかったら、モギリの女性に3分の1の金額を払い戻しせよと迫っていたに違いない。
 ロビーで演奏を聴いていると、楽章が終わるごとに観客が拍手をしている。普通は楽章の間には拍手はしないものなのだが、よほどこのヴァイオリニストの演奏は感動的なのに違いない。第1番ソナタが終わり、やっと入場。第2番を聴くと、それほど感動的な演奏とも思われないというか、演奏者の心がこもってないようにさえ感じた。それなのにまたまた楽章ごとに拍手が響く。
 このコンサート、いったいなんなんだ?
 第2番が終わり、休憩時間に。場内アナウンスで「演奏者からのお願い」で「楽章ごとの拍手はご遠慮下さい」と言っている。そうだろうなあ。おかしいと思ったよ。
 会場に同じ色の帽子をかぶった女性たちがかたまって座っていた。このコンサートを主催しているボランティア団体のメンバーらしい。演奏が全て終わった後の花束を渡したのもその帽子をかぶった人だった。
 おそらく純粋にクラシックが好きで来た人と義理で来ている人の割り合いは同じか後者の方が多いのではないかと見た。主催者もどれほどクラシックが好きなのか、この分ではよくわからない。
 いやしかし、こういうコンサートもあるんですね。なんとも珍妙な一夜を過ごしたことである。
 ちなみに第3番ソナタはなかなよい演奏で、アンコールの2曲、「悪魔のトリル」と「タンゴ」はとてもよい演奏であった。カメダという演奏家にはブラームス全曲はまだ荷が重かったのかもしれない。もっとバリバリ弾きまくる若々しさを前面に出した演目ならば、もう一度聴いてみたいものだ。

(2001年10月25日記)


目次に戻る

ホームページに戻る