その虫が体に住み着くと、自分の周囲の人間を犠牲にしながら金を集め、ついには自分の命さえ失ってしまうという”金蚕蠱”。「オヤジ狩り」をするグループの気弱な少年にその虫がとりついた。このアイデアだけでもう勝ったようなものだろう。それに加えて、「古族」一派である姉弟。この二人は狼少女と”カナリア”と呼ばれる現世の法から自由な存在である少年である。一族から逃げた二人を追う奇怪な刺客たち。主人公の呪禁師の存在がかすむほどだ。
これらの人物たちがそれぞれの流れに沿って動き、少しずつよりあわされてくる。その重層的な構成がしっかりしていて、最後まで読者を引っ張っていく。
難を言えば、端役の少年たちの背景まで細かく語り、かえって有りがちな少年像になってしまっている上に、その説明のためにところどころ流れがとぎれがちなことか。
しかし、そんなことは小さい小さい。’97年度ロマン大賞の新人デビュー作、細かくケチをつけるような作品ではないのだ。新人のデビュー作をシリーズ化することには必ずしも賛成ではないのだが、本作については、続編も読みたいと思ってしまった。今後を期待できる有望株の登場である。
(1997年10月22日読了)