読書感想文


光の塔
今日泊亜蘭著
早川書房 ハヤカワ文庫JA
1975年12月31日第1刷
1995年5月31日第4刷
定価621円

 なぜ今ごろ「光の塔」を読んだのかというのは、「S−Fマガジン」の原稿がらみとだけ書いておく。実はこの名作を私は読んでいなかったのだ、わはは。恥ずかしい限り。
 初出は1961年。つまり、今から36年も前の作品である。しかし、古びてはいない。驚くべきことだ。未来世界の情景を決してバラ色の科学文明による明るいものにしておらず、当時の状況から演繹的に導き出しているところなど、著者の見識を感じる。
 文体は戦前の探偵小説にも見られた独特の文体で、古色蒼然としたところなきにしもあらずだが、今読むとかえって新鮮な印象を与えるから面白い。
 冷戦と核開発競争という時代状況を色濃く反映し、核兵器による環境破壊を警告するというテーマがあるが、これを超未来から未来への警告という形をとったのが、古さを感じさせない理由か。
 新装版で読んだために、作者のあとがきがついている。これが痛快。あとがきは「作者本人の手前味噌でなければ下手失敗の弁解」と断じ、作品さえ面白ければ作者の経歴や人相などは紹介する必要なく、「批評以前に根掘り葉掘り知りたがるのはねこれすなわちテレヴィ・週刊誌に氾濫するミーちゃんハーちゃんのお人柄『楽屋のぞき』に他ならない」と一刀両断。普段あとがきにいろいろと考えるところのあるぼくとしては、よくぞ言ってくれたと拍手したいくらいだ。
 SFと科学小説の違いの考察など、今年のトピックである「SFクズ論争」の顔色をなからしめるような指摘があったり、このあとがきだけでもぜひ読んでほしい。

(1997年11月8日読了)


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