読書感想文


龍馬死せず 5 威風堂々
緒形忍著
学習研究社 歴史群像新書
1997年10月4日第1刷
定価760円

 シミュレーションに架空の人物を出すなとはいわない。しかし、本書では龍馬とともに命を落とさずにすんだ中岡慎太郎をアヘン漬けにする妙な幻術師が出てきたり、その弟子の女性が毒の吹矢を使って龍馬を助けたりと、シミュレーションの域を超えた展開が見られる。
 もし坂本龍馬の暗殺が失敗していたら、生きのびた龍馬は日本の舵とりをどうするかという小説は、多数ある。政治家としての龍馬、軍人としての龍馬、貿易商人としての龍馬など、いろいろな視点からそれらは描かれている。本シリーズでは、その全ての役割を龍馬に期待している。そのため、展開に無理が生じてしまった。しかも結末で龍馬が日本政府とイギリス政府間に結ばせる条約ときたら! これは条約ではなく憲法である。いくらなんでもイギリスの代表や政府がそんな条約を締結するであろうか。
 歴史を変える面白さは、正しい歴史認識あってのこと。小説としては面白い着眼点かもしれないが、説得力がないではないか。また、できればこの歴史改変で日本はどう変わったのかということにも言及してほしい。どうなったかは読者の想像に任せる、では、あまりにも歴史に対する姿勢がいいかげんだと思う。

(1997年11月19日読了)


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