読書感想文


日輪の割れる日
足立和葉著
小学館パレット文庫
1997年12月1日第1刷
定価429円

 新人の文庫デビュー作。和葉と書いて「かや」と読ませる。
 舞台は奈良時代、長屋王の反乱を下敷きにしている。異色の舞台設定といっていい。この時代を取り上げる作家はあまりいないのだ。実際は権力争いなど面白い時代なのだが。この時代を選んだというセンスに注目したい。
 主人公は藤原氏北家の二代目、藤原永手。歴史的にもあまり名の通っていないこの人物を、作者は藤原鎌足から続く藤原氏の呪術的側面を担う者として生命を吹き込んだ。藤原氏がこののち長期的に政権の頂点に立っていく秘密を解く鍵となる人物にしたのである。
 対するは長屋王に協力する謎の新羅僧。こちらも妖術を使い、藤原氏から実験を朝廷に奪い返そうとする。2人の対決にいたる展開など、もっていき方に無理がなく、奈良時代の様子などもよく調べられていて違和感がない。
 大人の権力争いに無常を感じ、主人公が変貌していく、そこらへんに作者の肉声が聞こえてくるようだ。
 惜しむらくは会話の語調があまりにも現代の若者風なこと。読者層を考えてそのようにしたのだろうが、このような設定の好きな女の子というのは、時代がかったしゃべり方でもちゃんと読んでくれると思うのだが。

(1997年11月28日読了)


目次に戻る

ホームページに戻る