主人公は戦時中に恋人を亡くし身をはかなんで自殺をしたが、まだ命数が尽きていないために死ぬことができない。恋人と再会したければ「十二支が十二廻りする間に千人の日本人の願いをかなえること」を条件に閻魔大王よりこの世に差し戻される。かくして彼女は干支宇巡里(えとう・めぐり)という名前で22才の姿から年をとらず人々の願いをかなえるために生き続けるのであった。
確かに設定としては面白いしシリーズ化もしやすいだろう。しかし、どうして命数が尽きていないというだけでこのような条件を提示されたのか、また「十二支が十二廻りする間」という期間設定や「千人の日本人」という人数および国籍設定はどこから導きだされたのか、全く不明で私には必然性が感じられなかった。彼女がもともと予知能力の持ち主であったとかカギは少し見せているものの、これがシリーズ化されなければそんな伏線も無駄になってしまうのじゃないだろうか。
本書での願いは浪人生による大学合格。ここらへんの平凡さはけっこう好きだ。ただ、願いをかなえるために彼女が何をするかというとその浪人生の家庭教師をするのだ。それはまあまっとうな方法だろうけど。でも、超常的な存在である巡里がとる方法としては、もっと他にないのかいなとも思う。
ここに彼女を姉殺しの犯人と信じこんだ男が登場し、話をややこしくしていく。ねらいはわからないでもないが木に竹をついだような印象を持つのは私だけだろうか。異質のものがからむことによる相乗効果をあげていないように思うのだ。
この手のティーンズ小説にそれほどの説得力を求める方が間違いといわれればそれまでだけれども。
(1997年11月29日読了)