和風異世界ファンタジー。舞台は奈良時代から平安中期を思わせる「仁和国」。第一皇子の青海皇子は出生時に母である皇后の腹を切り裂いて産まれたため父の皇帝にうとんじられている。彼の味方は乳母の娘で現在は男装して舎人として仕えている真澄という少女と妓楼の用心棒、嵐のみ。
都を襲う「海魔」を退治するために兵を率いる青海に、なにかと預言をする謎の巫女、楓。彼女は実子である第二皇子を皇太子にしたい現皇后の意を呈しているらしいが、どちらの味方ともとれない行動をとる。「海魔」を操る「海皇」の正体とは何か。
道具立ては揃っているのだ。話のまとめ方など、決して下手な作家ではない。しかし、時代を特定できない和風の異世界は、どこか書き割りにも似て薄っぺらく感じられてならない。「海皇」の正体も途中で読めてしまう。眼目はそちらにはなく皇子と真澄の不器用な恋の行方にあるからそれはそれで構わないのかもしれないが。どうも小手先でうまくまとめようとしてせっかくスケールの大きな話になり得たものが箱庭のようになってしまったと感じるのはぼくだけだろうか。
(1997年12月4日読了)