読書感想文


夢人に惑う星−天帝譚−
藤原眞莉著
集英社コバルト文庫
1997年11月10日第1刷
定価457円

 天帝譚第5巻。
 中華風異世界ファンタジー。天帝といっても道教世界の神様が活躍する話ではなく、天宮の設定など全て作者のオリジナル。天界を統べるのは黄帝と呼ばれる天帝で、死に際して次期赤帝を予定されている少女、絳星を指名する。ところが、黄宮を守る聖獣、麒麟の雄、煌麒は聖魔獣の血を引く青年、昏藤を次期黄帝にしようと画策、次期黄帝の座をめぐり、多彩な登場人物の思惑が錯綜する。
 このような人間(?)関係のあや、キャラクターの描き分けなど才気を感じさせる作者である。少女、絳星が運命に翻弄されながら少しずつ成長していく様子も読んでいて楽しみである。
 しかし、キャラクター小説の限界とでもいうのだろうか。天界は結界の中に封じ込められており、彼らが統べる世界にいるはずの我々同様というような凡俗のことなどどこにも出てこない。国民無視で権力抗争をしている政治家じゃないんだから。そこらへんは少し匂わすだけでいいから、多少は触れてほしい。彼らの運命次第で一番混乱するのはやはり凡俗たちなのだから。そういう意味では、これもまた箱庭的世界でキャラクターをいじくりまわしていると言えるのかもしれない。

(1997年12月6日読了)


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