もしヒトラーがアメリカの大統領だったら、という架空戦記。ただそれは単なるアイデアに留まらず、民主国家を自負するアメリカ合衆国という国が指導者によってはファシズムの国にもなり得るという、衆愚政治としての民主主義の弱点をついている。そこにぼくは作者の政治的センスを見る。
また、このシリーズではヒトラーに対するもう一つの軸として、日本の戦闘機乗り、飛島翔という若者を主人公とすることで一兵士から見た戦争という視点も持っている。つまり、戦争を政治家と現場の人間の二つの立場から比較して重層的にとらえているのだ。軸がはっきりしているので作者の言いたいことがよりわかりやすく伝わってくるし、小説としても面白いものにできあがっているというわけだ。
本書では膠着したフィリピン戦線を打開するために、ヒトラー大統領はソ連と手を組み共産系の独立勢力を利用して、独立運動の高まりを理由に日本に停戦を申し出る。これは、史実のヒトラードイツ総統がソ連と不可侵条約を結んでヨーロッパ戦線に全勢力を傾けたことを想起させる。このように、作者はヒトラーという人物の方法論をよく研究し、政治の延長としての戦争にリアリティをもたせているのだ。
ところで、本書の第2章では奇数ページのはじめの4行が前のページと重複し、終わりの4行が切れてしまって読めなくなっている。明らかな校正ミスである。著者校正で指摘するまでもなく、誰が読んでもすぐにわかる。なぜこんなことが起きたのか、出版社は購入者に対し、交換などの対策をとる必要があると思うのだが。書店で直っているものがないか探したが、読了時点では見つからなかった。珍しいミスだからこの本はとっておいて、直ったのが出たら買いなおすことにしよう。同じことを考えてる人はけっこう多いかもしれんね。
(1997年12月7日読了)