読書感想文


月の系譜 焔の遊糸
金蓮花著
集英社コバルト文庫
1997年11月10日第1刷
定価495円

 シリーズ第4巻。
 平凡な女子高生、山吹泉が実は異界の姫であり、彼女が少しずつ覚醒し本来の冷酷な姿を取り戻す過程を描いた物語。泉が普通の少女のままでいたいと願う気持ちと封じられた記憶や能力が戻っていく恐ろしさとの葛藤がこのシリーズを通じてのテーマとなっている。
 力を取り戻すのに従ってかつての彼女の従者たちも次々と姿を現してくる。本書ではその一人である財界の大物が入手した「夏越の弓」をめぐり、元の持ち主である蠱術を使う少女との戦いが軸になる。この少女は女であるが故に家に伝わる奥義を授からないまま天涯孤独になったのだが、その心のよりどころとして「夏越の弓」があったのだ。
 弓を取り戻したい彼女は蠱術で泉たちを襲う。実は彼女に流れる鬼の血がそうさせているのだ。彼女の気持ち以上にふくらんだ鬼の気が実体化して泉と戦う。
 とにかくこの作者は凝り性なので、1巻あたりはただ単に覚醒して超能力者としての自分を取り戻すだけの話のように思えたものが、巻を追うごとにだんだん奥が深くなりおもしろくなってきた。伏線らしきものが二重三重にはられていたが、ここにきてそれが生きてきた。デビュー当初は短編向きの作家かと思っていたけれど、なかなかどうして、一作ごとに力をつけてきているのがわかる。デビュー時から読み続けているとそんな過程を見守ることもできるわけで「S−Fマガジン」で第1冊目の文庫から紹介してきた身としては、嬉しい気分になろうというものだ。
 お勧めのシリーズである。

(1997年12月7日読了)


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