まず上巻を読んでの感想。
東西分断された日本で、昭和天皇が亡くなった。つまりこれは歴史改変小説なのだ。外国人特派員が見た東西日本の様子を描きながら、彼が二国間の争いに巻き込まれていくことにより、物語は進む。
外国人が見た日本のカリカチュアという視点では、小林信彦の「すばらしい日本野球」「ちはやふる奥の細道」といった傑作には敵し得ない。笑わせてくれないのだ。おかしくないのだ。改変世界の設定はカリカチュアライズされたものとして読者に提示される。かなり凝っているし、ここで笑わせようとしているのだなという部分もよくわかる。わかり過ぎて面白くないんだな。見え見えで、つまらない。アイデアをそのまま書き並べるだけで、ひねりがない。だいたい西日本の首相が「吉本シズ子」って、読者にわかるかね。これは笠置シヅ子が吉本興業の跡継ぎと結婚してたという芸能界の裏面史を知らなければ意味が通じないのだ。ところが、これは吉本関係者でも知らない人がいるくらい、誰も知らないことなのだ。よく調べているなと感心はするが、これは逆にひねり過ぎ。笑いに直結していない。
歴史改変ものという視点では、これはなかなかよくできたストーリーだと思う。本来ならものすごく緊迫感のある展開のはずだ。ところが、前述したカリカチュアによるギャグがそれを見事なまでに殺している。もったいない。
つまり、全般にあれもこれもと狙い過ぎて、中途半端なのだ。小林信彦も清水義範も架空戦記も読んだことのない人なら新鮮に写るだろう。でも、私はついそれらと比較してしまうのだ。
下巻では東西の壁の崩壊へと話が進むことになるようだが、そこでどこまで盛り返すか。全部読んでみないと判断できない。
(1997年12月20日読了)