読書感想文


妖臣蔵
朝松健著
光文社時代小説文庫
1997年11月20日第1刷
定価1000円

 「元禄霊異伝」「元禄百足盗」に続く”祐天上人”シリーズが完結。文庫本にして720ページをこえる大作である。
 元禄時代、柳沢吉保と怪僧隆光による怪魔”巨旦将来”を呼び寄せて江戸幕府を瓦解させようとするたくらみは、本書においてクライマックスを迎える。
 ”巨旦将来”は47に分裂し、赤穂浪士にとり憑く。吉良上野介邸への討ち入りをきっかけに江戸の町を混乱に陥れ、一気に破壊に持ち込もうとするのだ。この着想のユニークさ。正義の象徴である赤穂四十七士を破壊神の分身とするとは。
 討ち入りというのは義挙に見えながらもよく考えると筋が通らないところも多い。それに新しい解釈を与え、権力をほしいままにする柳沢や隆光と、衆生の側に立つ祐天上人という図式に、超自然的な神と仏の対決をからめていく。このことで、どれだけ物語に奥行きが出ることか。もちろん四谷怪談などのエピソードも見事に折り込まれている。
 登場人物全てに意味があり、無駄に現れて無駄に死ぬ人物など一人もいない。優れた物語とはそうしたものだ。登場人物全ての行動が、討ち入りというクライマックスに収斂していく。
 大病を克服した作者は死生観というものを深く考えたに違いない。それが本書には込められてる。朝松伝奇小説のスタイルはここに完成した。記念碑的作品として、この三部作は長く読み継がれていってほしいものだ。

(1998年1月7日読了)


目次に戻る

ホームページに戻る