革新的な戦国大名として知られる織田信長。しかし彼は室町幕府六代将軍足利義教の手法を模倣していただけで、実像は前例を知らない田舎大名であった。これが本書で作者が論じている説である。
江戸時代、信長は太閤記の脇役でしかなかったこと。室町時代、足利将軍は武家の棟梁として、我々が考える以上に重い存在であったという考え方などを例示し、信長をヒーローとする「常識人」の”小松くん”との対話形式で説き起こしていく。
説の真偽はともかく、大胆な仮説と史料をもとにその説を検証していく手さばきには読み手を魅了するものがある。見方の違いによって、歴史上の人物に対する印象がどれだけ変わっていくかを改めて感じさせてくれた。映画やTVでつくられた信長像を一変させる興味深い本であった。
私としては、信長が前例を打ち破る大名であったか、前例を知らない田舎大名であったか、判断がつかないのであるが、そうした謎がある方が、より魅力的であることだけは確かである。
(1998年1月11日読了)