本伝では書けなかった先頭の末端にいる者の姿を描いた中短編が3本収められている。
戦術として見殺しにされた駆逐艦隊の孤独な戦いを描く「カムヒア、ミッキーマウス」、潜水艦と海防艦の駆け引きを描いた「蒼海の牙」、漂流する兵士を救援する部隊における少年兵の成長を描く「生命は我が戦果」と、いずれも敵と味方の間に生じる感情の機微を丁寧に書き込んでいて面白く読めた。「修羅の波濤」の世界でなければあり得なかった事件を取り扱っているという点では「架空戦記」という手法でなければ生まれなかった物語かもしれない。
それでも、この内容ならば特段「架空戦記」でなければならぬということもあるまい。この作家の手になる歴史小説としての「戦記」を読んでみたいものだ。
(1998年1月25日読了)