これは単なる「横山やすし伝」ではない。
1980年代の演芸の世界の記録であり、当時の映画界のドキュメント(映画「唐獅子株式会社」を通じて作者と横山やすしの関係が語られる部分は胸が苦しくなるほどである)であり、江戸っ子から見た大阪に対する文化批評であり、芸人のあり方についての問いかけであり……。
木村雄次という少年が”横山やすし”となり「天才漫才師」であり続けるためにどれだけ命を削っていったかを、作者自信が実際に見たことと信頼のおける資料にのみ基づいて書き上げている。時にはその死を惜しみ、時には突き放しながら。
全体で見れば、「横山やすし」を通じて大阪というものを語っているとも言える。上っ面だけを見た薄っぺらなものではない。香川登枝緒、澤田隆治といった人たちとの深い交友があってこその著作である。
演芸ファンは必読。そうでない方も一度は読んでみてほしい。
(1998年1月26日読了)