「ゲーム・ミステリの決定版」と銘打っているが、推理小説ではない。ゲームソフト会社の内部における人間関係、ゲームデザイナーたちが独立していくビジネス上の問題などを綴った企業小説である。
佐藤大輔の文章はこれまでの作品を読む限り、非常に読みにくかった。それはかなりひねくった皮肉たっぷりの文章を多用しているせいで、それなりに効果を与えているとはいうものの、真意が伝わりにくいという弱点を持っている。ところが、本書ではそのような表現はそれほど多用されず、思ったよりも素直な文章なのである。たぶん、この作品は作者の肉声で語られているのではないだろうか。作者はこれまでフィクションを構築するために極めて人工的に文体を作り出そうとし、その姿勢をくずそうとはしていなかった。ところが、なんらかの形で自分が関わってきた業界について書くにあたり、その人工的な文体では表現しきれなかったのではなかろうか。自分の肉声に近い文体でなければこの作品を書くことはできなかったのではないだろうか。推測に過ぎないが、読んでいてそんな気がした。
(1998年2月9日読了)