読書感想文


Memories〜記憶〜
涼風涼著
小学館 スーパークエスト文庫
1998年3月1日第1刷
定価562円

 歴史小説作家の息子が父の死後、生前には入れなかった書斎に入り、父には珍しいミステリー小説を発見。作中にもう一本の小説が入れ子のようにしつらえてあるという、二重構造をとっている。
 しかし、作中のミステリーがあまり出来の良い話ではないので、そういった構成にして成功したとは言い難い。ステロタイプのトップ屋が途中でお約束のように殺されたり、大会社の社長が金とコネを総動員して建議をかけられた息子を釈放させたり…。TVの二時間ドラマじゃないんだから。
 その原稿が作家の息子に何を伝えたかったかも、その原稿の終結部分までくると、だいたいわかってしまう。
 ただ、こういった構成に挑戦する意気は買いたい。実力がそこまで追いついていなかったというべきか。もう少しスタンダードなミステリーを書いて力を貯えてからまた挑戦してみてほしい。
 もうひとつ注文するならば、地の文体と作中の小説の文体がほとんど変わらないというのはいかがなものか。こういう場合、よくある手法ではあるが、地の文体は一人称、作中作は三人称と書き分けた方が効果があがったように思う。

(1998年2月21日読了)


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