小林信彦の持つ美学と文学志向と”笑い”に対する厳しさを十分に味わえるエッセイ・コラム集。
特に美空ひばりを論じた部分については笠置シヅ子への再評価という意味において、大いに共感できた。美空ひばりファンが書くと笠置シヅ子はひばりに「東京ブギ」を歌うことを禁じた悪役扱いされてしまう。しかし、笠置シヅ子はオリジナリティを持っていたが、ひばりは必ずといっていいほど既存のものをひばり流で表現する。こういうような指摘ができる人は少なかろう。ひばり神話の虚構をはぐすぐれた論考といっていい。
下町の商家に育った著者は、戦後、高度経済成長期に失われた昭和モダニズムを身につけた最後の世代か。だからこそ、戦後のアメリカ文花の流入に対しても「大正から昭和のはじめにかけて、日本にはすでに欧米文化が浸透していた」という指摘に説得力がある。
一番の読み物は長篇「世界で一番熱い島」を書いている最中の日記だろう。ここに小林信彦という作家の創作態度がもれなく書かれている。
こういうエッセイはもっと話題になっていいはずだ。
(1998年3月10日読了)