読書感想文


Jの神話
乾くるみ著
講談社ノベルス
1998年2月5日第1刷
定価900円

 第4回メフィスト賞受賞作。
 ミステリーとして始まりSFとして終わる異色作。
 全寮制の女子校で起こった自殺騒動。その意味するものは何か。残された鍵は「ジャック」と書かれた少女の遺書。おとなしい新入生の視点で学校内の人間関係が描かれたかと思うと、変死した別の少女の親からの依頼で少女とその姉の死因を探る女探偵「黒猫」が謎を追及する場面に変わる。ここいらはミステリですね。
 ところが「黒猫」がある産婦人科医を一連の事件の鍵を握る人物として狙いを定めたところから物語は急展開を見せる。
 産婦人科医が施術した体外受精とその結果産まれたYY染色体を持つ胎児……。これ以上書くとネタバレになるな。
 この作品の特色はYY染色体を持つ人間とはいったいどのような存在なのかという理屈っぽいアイデアを、少女の変死事件や女の子たちの人間関係などとからませて、文句なしのエンターテインメントに仕上げているところにある。ラストでは歴史上の事件とYY染色体人間の存在を関係づけ、進化に関わる大きな物語に仕上げている。学園ミステリと見せかけてこれだけ話を広げてしまう大業に脱帽した。

(1998年3月27日読了)


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