この作者のデビュー作には秋月達郎の推薦文がついていた記憶がある。作風に秋月達郎の影響が見られるのはそのためか。
本書は真珠湾攻撃にでた一航艦がもぬけの殻の米軍基地を見てショックを受けるシーンから始まる。作戦は、尾崎秀実、リヒャルト・ゾルゲからルーズベルト大統領へと筒抜けになっていて、アメリカ航空艦隊は逆に柱島沖に奇襲をかける。その結果、山本五十六が連合艦隊司令官の職を辞するかどうかというところまで追い詰められてしまう。起死回生の一手として、戦艦「長門」「大和」は空母に改装され、日本海軍の航空機主力化が進むことになるのである。
これまで架空戦記では悪役扱いであった東条英機の人間味を描いたり、山本五十六と南雲忠一が軍人としての立場を離れて茶をすするシーンを入れてみたりと、人物像を細かく描くことで人間どうしの関係の一つとして戦争を描こうとしているようである。
それが戦争の本質をとらえきっているかどうかは、次巻以降を読んでみないとまだ結論は出せない。
(1998年3月27日読了)