第6回メフィスト賞受賞作。
このミステリーはいきなり結末が提示される。そしてストーリーは時間をさかのぼる形で発端に向かって書きすすめられていく。主人公たちはそこに至るまでの記憶を持たず、自分たちが何者でどういう関係なのかを探り始める。
小説の登場人物は普通は自分たちをフィクションだとは思わずに行動する。あたりまえである。それが小説というものだ。ところが本書ではそれをあえて彼らに意識させるのだ。よって、作家と主人公が本気でけんかをしはじめたりする。作家はあの手この手で主人公を消しにかかるが、ご都合主義的な展開に書き直そうとするたびに誰かから非難を浴び、書き直しに失敗してしまう。主人公たちは殺されまいとして小説の世界から脱出しようとする。
作家が小説を書く時、そこにはおのずからルールができ、決して万能の神にはなれない。そこを逆手にとったメタフィクションである。
さて、真の創造主とは作家のことなのか。それとも他の誰かなのか。凝った趣向で読ませる小説で、作者の力量を感じさせる。
ただし、この手は一回きりしか使えない。自作はまた新しい趣向を期待されるだろう。それにどう応えていくことができるか。注目しておきたい。
(1998年4月5日読了)