読書感想文


薩摩が背いた!
机宙人著
コスミックインターナショナル COSMO NOVELS
1998年2月2日第1刷
定価762円

 帯には「異色幕末シミュレーション・ロマン」とあるが、これは架空戦記ではなく、虚実取り混ぜた時代小説である。編集者はしっかりしなさい。それともそううたわないと売れないのか。
 幕末に薩摩藩の財政を立て直した調所笑左衛門の経済政策の推進を軸に、それを探る幕府隠密として間宮林蔵を配し、大塩平八郎の乱をからめるなど、なかなか考えてあり、面白い。薩摩藩が琉球や奄美大島を詐取するのを見て怒る調所数馬という若者の熱血ぶりも好ましい。その数馬が紆余曲折を経て結ばれた恋人と新天地を求めて琉球に旅立つという、ラストシーンも爽やかである。
 娯楽時代小説としてちゃんと書かれた小説なのだ、これは。時代小説として一級品かといわれると、そこそこのレベルだとしか言えないけれども。とにかく、これをシミュレーションだと称して売るというのは、詐欺である。そういう意味では、作者や作品に対して失礼なのではないか。

(1998年5月17日読了)


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