第5回ホワイトハート大賞受賞作。
中流貴族、源義明のもとに帝の姫宮が嫁いでくる。彼女は元斎宮の娘で、夫を寝所に受け入れない。しかも夜な夜などこかへ消える。義明は都を惑わす、顔を食らう化け物ではないかと疑うが、実は姫宮は怪異を倒す能力を持っていて化け物と戦っていたのだ。
新人とは思えぬ達者な筆致。実は「高館薫」名義で「ウィングス」「ハヤカワHi!」の賞を受け、新書館から何冊か本を出していたのであった。とはいえ、ペンネームを変え、一からの出発という道を選んだのだから、さぞ勇気がいったことだろう。
最初はお互いに心を開かなかった二人が共通の目的を前に少しずつ気持ちを通じ合わせていく様子がていねいに書き込まれていて好感を持つ。
安倍晴明の使い方がうまい。姫宮が「じじい」と呼ぶだけで晴明自身は出てこない。
平安朝の空気がやや現代風なのはやむを得ないところだろう。辻褄のあわないところもままあるのだけれど、そんなことは読んでいる間は全く気にならない。
優れた書き手がまた一人登場した。今後の活躍を大いに期待したい。
(1998年5月23日読了)