読書感想文


RED RAIN
柴田よしき著
角川春樹事務所 ハルキノベルス
1998年6月8日第1刷
定価686円

 タイトルは、二十一世紀の初頭、地球を覆うように降る酸性雨のこと。それに象徴される近未来の姿は、暗く、重い。小惑星の接近によってもたらされた宇宙ウィルスDによって吸血鬼化する人間が現れ、政府は特別警察官によってD感染者を保護、被害が広がるのを防ぐともに、新人類であるD感染者を抹殺しようとしている。
 主人公シキは腕利きの特別警察官。離婚する夫との間に、子どもの養育件をめぐって調停を受けている。子どもの養育費などもあり、彼女はD感染者を殺害することを正当化し、職務を遂行する。しかし、D感染者を新人類として認め、その進化を守ろうとする謎の組織の中枢に入り込もうとして失敗した彼女は、自分がDに感染していることを知る。立場が逆転し、警察に追われるようになった彼女は大きく変化していく。
 作者のメッセージは、親として妻としてそして職業人としての一人の女性の生き方であり、あるいは価値観の逆転によって人はどのような行動を取り得るのかという問いかけであるように感じた。
 ここでの近未来設定は魅力的であるが、このようなメッセージを伝えるための舞台として用意されたものであり、SF的思考の面白さを求めるものではない。主人公を通じて我々は環境の変化に対しどのように対応していくのかというようなことを考えさせられる、そのような面白さである。
 まあ、私はSFであろうとなかろうとこの物語を面白く読んだし、メッセージをしっかりと受け止めたのだ。一気に読めるSF風アクション小説である。

(1998年6月6日読了)


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