シリーズ第5弾。今回は中編が2本。
まず「霧の恐怖」。マッド・サイエンティストが細胞壁を持った水滴に、人間が死ぬ時に感じる恐怖感や憎悪の記憶を写して死者を再生する。凄い科学を自己満足のために使うエゴイストの話である。
次が「鴇色の仮面」。仮面を少女たちに渡してその血液を仮面に吸わせ、自分の老化防止のために使う愚かな女性の話。
どちらも悪役がセコい。ちっとも恐い存在になってない。まあ、人間の欲望なんてその程度のものだといえなくもないが。
しかし、「霧」にしても「仮面」にしても、それ自体に様々な意味を持たせてスケールの大きな話にできると思うのに、単なる小道具としてしか使っていないのはもったいないことだ。
少年たちのキャラクターも固まってきて、手堅くまとめたシリーズではあるが、夜の新宿を舞台にしながらなんともお手軽なアクション小説の域を脱していないのは残念である。これが乱歩へのオマージュだと作者は第1巻で書いていたが、ちょっと違うんじゃないかと思う。
(1998年7月4日読了)