読書感想文


皇国の守護者 1 反逆の戦場
佐藤大輔著
中央公論社 C★NOVELSファンタジア
1998年6月30日第1刷
定価800円

 なんとこれは異世界ファンタジーなのである。ただし、設定はより現実に近い。
 〈大協約〉世界のほとんどを支配する〈帝国〉と、貿易黒字の島国〈皇国〉の貿易摩擦がまずある。〈帝国〉の人物はロシア系とドイツ系の名前が、〈皇国〉の人物には日本系の名前が与えられている。〈帝国〉はいわゆる「帝国主義」をシンボライズしたような国で、〈皇国〉はもし日本が戦前に植民地を求めようとしていなかったらこのような国になってただろう、という感じか。文明は、〈帝国〉が産業革命が起こりかけた頃で、〈皇国〉は産業革命がかなり進んでいる。だから、〈帝国〉にはまだ専制君主がおり、〈皇国〉は君主はいるものの議会民主主義が根づきはじめている。
 主人公は〈皇国〉の陸軍少尉、新城。彼は剣牙虎(サーベルタイガー)を使う剣虎兵である。この作品をファンタジーらしくしているのはこの剣牙虎や翼龍、天龍といった架空の生物たちの存在だろう。また、通信機がないかわりにテレパス能力(かなり制限があるが)をもった導術士というアイデアもそうだ。ただ、これらのファンタスティックな小道具も、作者の手にかかれば現実の兵器などと同じような扱いになってしまうが。
 物語は突如〈皇国〉の辺境に侵入してきた〈帝国〉軍に対し、圧倒的敗北の中で退却の殿軍を務める新城大隊の戦術が中心となっている。新城はいかに兵士を生き延びさせるかという戦術をとる。
 架空戦記ではまだまだ制約があってできなかったことを異世界ファンタジーという舞台でしようという作者の意欲が見てとれる。果たしてどこまで空想を広げられるか……。本書ではまだまだ現実の戦略・戦術の枠に引っかかっていてあまり異世界ファンタジーらしくないという感じではある。それも作者らしいといえばそうなのだけどね。

(1998年7月31日読了)


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