会社を退職した20代後半の独身女性が主人公。彼女は不倫の果てに会社を退職、古いマンションの一室を購入し、転居する。彼女の周辺に「不思議の国のアリス」のキャラクターの姿をした謎の人物たちがつきまとう。不倫相手の自殺、そして会社で同僚であった友人もまた……。彼女を追い詰めるように事件が起こる。同じマンションの親切な老女たちとともに真相を突き止めようとするのだが……。
登場人物それぞれの過去が連鎖のようにつながり、一つの大きな環となっていく。私には本書で問われているものは殺人事件の犯人ではなく、どの人間も持っている「過去」を現在の自分たちがどのように精算していくかという、一人の人間としての業とでもいうべきものなのではないかと感じられた。
むろん、本書は本格推理であり、事件の真相を探ることが主題となっているのだ。しかし、それだけではない重いテーマがここにはあるのだ。
(1998年8月18日読了)