読書感想文


地底獣国の殺人
芦辺拓著
講談社ノベルス
1997年9月5日第1刷
定価760円

 名探偵、森江春策のもとに現れた謎の老人。彼は春策が調べていた祖父のことについて何か知っているらしい。老人の口から語られたのは、祖父春之助が、ノアの方舟を発見するという新聞社の企画したイベントである探検行に参加し、アララト山まで行ったこと。そこで恐竜などの跋扈する世界に入りこんでしまったことであった。彼の地で起きた連続殺人の謎を老人の話と残された記者のメモ、新聞記事の切り抜きなどだけから解いていくという離れ業を春策はやろうとする。
 本格ミステリと奇想天外な冒険小説の融合を作者はここで試みている。その推理部分など、老人が自分に有利にするために嘘を織りまぜた物語からわずかな矛盾をつくという、まさに本格ミステリである。
 冒険小説の部分では、そのころの異端の学説を資料としてうまくとりあげ、いかにも明治時代らしい秘境冒険小説の面白さを再現させている。
 私にとって不満なのは、殺人事件の解決が話の中心となるために、地底獣国の謎が解決されないままに残ってしまっていることだ。ミステリ小説にするためにはどちらか一方に絞らねばならなかったことはわかるのだが。この次は、秘境の謎解きを中心とした冒険小説をこの作者には期待したい。きっと面白いものになるだろうことは、本書を読めば確信できるのである。

(1998年9月6日読了)


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