荒巻義雄「紺碧=旭日の艦隊」は矛盾点を多くはらんでいる。その上小説としての魅力も最近は特になくなっている。
本書はその矛盾点を指摘し、また荒巻義雄のひいている参考文献の信頼性、ストーリー展開の無責任さなどを十分に検討している。
この指摘は荒巻作品だけでなく他の架空戦記に対してもあてはまる内容となっていて、私としては十分に納得のいく批判書であった。著者の思想信条は必ずしも私と一致しているわけではないけれども。
しかし、架空戦記自体が一部のファンだけのものとなっているのではないと思われる現在、本書がそれほど大きな意義を持つかどうかというと、今さら何をという気もしないでもない。
それよりも、問題は著者の略歴があまり明らかにされていないところにあるように思う。ここまでしっかりとした批判本を出すなら自分自身もちゃんとした経歴を紹介して論戦になった時に突っ込まれないようにすべきでは。さらにその略歴のところに「この著者に『まともな架空戦記』を書かせたいという奇特な編集者は、ベストブック付けで連絡を!」などと書いてるというところもあまり好感が持てない。批評家が実作をするということはかなりの覚悟がいるのだ。ちょっとうさん臭さを感じてしまった。
ところで、荒巻氏は本書に対してなんらかの形で反論してくれないだろうか。野次馬的に期待したいところである。
(1998年9月12日読了)