総合商社の御曹子、冬輝はまだ10代ながらカナダ支社の社長をまかされる偉材。ところが、グループの総帥で祖父の春彦が、自分の命の恩人の孫を見つけだしたことで彼の運命は変わる。その孫、馨は母子家庭に育ち母は病気で長期入院し転々と学校を変わっている。馨を守らせるために冬輝は社長を解任させられ日本に帰国、一地方の高校に転入することになる。
その馨は実は超能力者で彼の力を手に入れようとするいくつかの組織から逃げまどっているのだ。学校を転々としているのもそのためなのである。冬輝と馨の前に超能力を持った刺客、ケニーが登場する。激しい戦いの中で二人の間に友情が芽生える……。
小説というのは絵空事なんだけど、もっともらしく見せるために工夫が必要なのは当然である。ところが、この作品には正直いって工夫のあとがほとんどといっていいほど見られないわけね。あらがめだち過ぎる。
いくらなんでも日本を代表する総合商社の社長の首を挿げ替えるのである。総帥だからといってそんな簡単にことを進められるものだろうか。また、自分の道楽(恩人の孫を守るというのは会社から見て明らかに道楽だ)社用のヘリをバンバンととばしたら、それは背任横領罪ものではないか。組織が大きくなればなるほど、資産運用へのチェックは厳しくなるはずだ。そんな会長が株主総会でどんな目にあうか、作者は考えているか。
まだある。長期入院している母をほったらかしにして馨が逃げるのはなんと香港。敵の組織が強大であればあるほど、本人のアキレス腱を狙うのは当たり前。母へのケアを何もせずに安易に国外逃亡なぞできるものだろうか。それに、なぜ香港なのだ。作者が香港が好きで香港でアクションしたかった気持ちはわからないではないが、それならちゃんと手順を踏まなければなるまい。
厳しいことを書いたけれど、編集者はなぜこのような欠点を指摘してやらないのだろうか。「ライトノベル」だから難しいことはいいっこなしというのだろうか。そんなばかなことはあるまい。
この作者はあまりにもものを知らない人だなと新刊を読む度に思う。
(1998年9月12日読了)