夢の宮シリーズ第10弾(12冊目)。「薔薇いくさ」と書いて「はないくさ」と読ませる。このシリーズにしては異例のことであるが、「薔薇の名の王」「十六夜薔薇の残香」と合わせて三部作を形成している。
正妃との間に子どものない若き王に、巫女が世継ぎについての予知を伝える。
予知能力のある者が不幸な未来を予知し、それを伝えなければならないことに苦しむのである。この場合、巫女は職業的予知能力者なので予知した未来は私情を交えずに相手に伝えなければならない。しかし、本書の主人公である巫女、照葉は、国王、木香のことを愛してしまった。そのため、自分の予知した不幸な未来をなんとか回避してほしいと願うのである。むろん、その未来を変えることなどできはしない。あいまいな言葉で王のとるべき方法を照葉は伝える。それが物語を悲劇的に動かしていくのだ。
身分をこえた恋。自分がひくことで相手が幸せになると考える巫女。それに対してどのような未来にも堂々と向き合う正妃。こういった構成は少女小説の典型であるかと思われるが、自分を表に出すことの苦手な女の子なんか、主人公の巫女に感情移入して読めるのではないだろうか。そこらへんのツボの押さえ方なんか、この作者はうまいんですよ。
私としては、もう少し予知された未来と現実との関係あたりをもう少し深く書きこんでほしかったし、予知された未来への介入というところもつっこんでほしかった。
そういう性質の小説でないことはよくわかってるんですけどね。
(1998年9月26日読了)