読書感想文


黒船の世紀 ガイアツと日米未来戦記
猪瀬直樹著
文春文庫
1998年9月10日第1刷
定価676円

 日露戦争から太平洋戦争の間に、日米決戦を予想して描いた架空戦略小説が流行したという。日本で、アメリカで、そしてイギリスにもそうした作家が存在したのだ。
 本書はその中から水野正徳という人物にスポットを当て、その生涯をたどりながら、なぜそのような小説が流行したのか、それらが大衆におよぼした影響はなんだったのか、小さなことからひとつひとつ検証し、大きな時代という背景を浮かび上がらせていくのだ。
 日本にとっては「外圧」、アメリカにとっては「黄禍論」が、背景としてあった。それが小説の形をとることで顕在化していったのである。相手を理解することなく、自らつくり出した幻影と戦争をはじめたかのようである。
 私は本書を読んでいて、現在の「架空戦記」の存在意義というものを考えずにはおられない。戦争を知らないで繁栄のみを享受している戦後世代の読者は、現代の日本を物差にしてアメリカに負けたという過去を消してしまいたいのだろうか? この読みは短絡的すぎるかもしれないが。
 著者は細かく調べていくうちに、国民の期待が軍の暴走を招いたのではないかという考えを抱く。メディアと、世論と、そして無意識のうちに形成されていった理解できないものへの攻撃的な感情などが。そして、それらは現代にも引きずられていっているのではないか、と。
 読者はこの著者の結論をどう解釈すべきであるか。
 現代の「架空戦記」を読んでいると、著者の結論はかなり妥当なものではないかと思えるのだが。

(1998年9月13日読了)


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