オカルト雑誌の契約編集者、八神亮介は、「地球空洞説」をとなえた異端の学者、佐伯史朗について取材を始める。佐伯は数年前に怪死しているのだ。取材に手をつけてから、亮介の周辺に異変が起こりはじめる。彼をつける謎の人影、そして記憶にない風景が白昼夢となって彼を襲う。死んだ兄の娘で現在は亮介の養女となっている果南もまた、同様のフラッシュバックを経験していた。
亮介の雑誌に連載をしていた美人占師フェイの失踪を皮切りに、編集部のメンバーが次々に死亡する。なんと彼らには戸籍がなかった。
作者は章と章の間に正体不明の人々がする会話を挟み込むが、そこでかわされる「箱庭を作り変える」という言葉がこれにあたるのか。
ある日突然自分のアイデンティティを揺るがす出来事が次々と起こり、とりまく全てのものが作り物めいてくる。それは、手塚治虫の短編「赤の他人」「すべていつわりの家」を想起させる設定である。自分の存在というものが不安定になっている現代人の心境をうまくとらえた展開であり、下巻では亮介と果南の真の姿が明らかにされるだろうし大きく世界が広がっていくことが期待される。
こと上巻を読んだ限りでは話のもっていきかたなど、傑作となる予感がするのである。
(1998年10月6日読了)