警視庁特殊公安部庶務課資料室なる部署があって、それは代々上宮王(聖徳太子)の転生を待ち、その転生した人物を助けることを職務とする人々で構成されている。
政財界の著名人が謎の爆死をとげる怪事件が続発、裏には政財界の黒幕、秋野遵光の姿が見え隠れしている。特公資料室の七星卓馬は、事件を追ううちに秋野の孫である葵と真珠の兄妹と出会う。二人は超能力を持ち、卓馬の捜査を妨害する。一方秋野は穢土比丘尼と呼ばれる尼僧の力でもって自分に逆らう者を倒していた。
葵は上宮王の転生した姿なのか。卓馬は比丘尼を倒すことができるのか。
転生した連中がうまく警視庁に入れているという安易さはあえて責めるまい。しかし、政財界の黒幕なんてのはアナクロ過ぎやしませんか。それも気に入らん人物を人知を越えた力で倒すなんていう黒幕はなんか情けないぞ。黒幕って、そんな単純なもんやないでしょ、といいたい。
全体に設定の部分で楽をしているというのか、もう少しリアリティを感じさせる部分がほしい。要は、葵、真珠、卓馬の葛藤さえ描ければどんな設定でもよかったのではないだろうか。リアリティなどなくてもどうでもいいのだろう。
しかし、私は、小説世界というものは全てが有機的につながっていほしいし必然性もほしいと思うのである。それでこそうまい嘘がつけるのだ。比丘尼だって、敵としての存在感が薄いしね。この比丘尼と上宮王の因縁を強めるとか、書きようはあるはずなのに。
むろん、そんなことを気にしない読者を対象としているのなら私の引っかかりなんかどうでもいいことなんでしょうがね。
(1998年10月10日読了)