登場人物はほとんどが「平家物語」に登場する主役クラスの人物の転生。名前も全く同じ。源義経、源頼朝、平重盛、平時忠、北条政子、静。彼らは600年の時を経て源平の戦いのやり直しをする。平清盛の霊の眠る「霊都」をめぐり、戦いは霊的な力のぶつけあいという形をとる。頼朝は学生ながら「霊都」を守るために自分で私立高校を作り、そこに校舎を建て、防備を固める。義経は霊都のことなど何も知らないまま戦いに加わることになる。
どうして、今、源平が戦いを再開しなくてはならないのか、そのままの名で転生しなければならないのか、そこがわからないまま話が進む。その謎をとくカギのひとつも出てこない。
細かい引っかかりはいくらでも挙げることができる。私立高校を作った頼朝の資金源はなにか、そんな簡単に学校法人の認可を受けられたのはなぜか。理事会のメンバー構成はどうなっているのか。
例えば、理事会のメンバーに北条時政や三浦義村や比企能員を入れておくとかいうようにすれば頼朝の目的達成のための大きな力になるはずだし、登場人物や物語にもふくらみが出るだろう。まさか、理事会のことも知らないとか、鎌倉幕府にかかわった有力豪族の名前も知らないとか、そんな作家にあるまじき知識不足ということはないだろうから、そういうものをカットする理由もあるのだろう。
それは、そんなものを細かく書いていては読者を混乱させるだけだとか、そんな風に考えているのかもしれない。もしそうだとしたら、面白くなるはずのものを平板にしてるだけではないか。それではもったいない。
源平が現代に戦う必然性なんてものはいくらでもそれらしく理由付けはできるだろうに、作者がそれをしていないというのは、小説としての完成度を自ら放棄してるようにも感じられる。しかし、ファンにとっては小説の完成度なんかどうでもいいことなんだろう。だから、設定は借り物でも展開はただスピード感があるだけでも満足なのだろう。
それでいいのだろうか。
作者はあとがきで自分が忙しいことを日記風に書いている。そして、本書はわずか6日で書かれたということも。そんなことを書くのはとてもはしたないことのように思う。
(1998年10月10日読了)