大時代的な痛快冒険活劇を現代に蘇らせたいという作者の気持ちはわからないではないが、「快男児天空丸絶斗」が空も飛べば海も潜る自動車「快速號」で地上も海底も上空も地底も縦横無尽に活躍するという話を無条件に楽しませるためにはかなりの筆力がいると思う。
絶斗を活躍させるために作者が用意した舞台は、違った歴史をたどった日本である。
1940年代、英独露間が停戦、ともに「メガ炉」なるエンジンを積んだ超兵器を所持していて三すくみの状態になったためである。地球を常に争いに巻き込んできた「深洲」という組織が「メガ炉」をさらに上回る「ギガ炉」を入手し、宇宙にも飛び出せる超戦艦「萬皇」を建造する。1970年に東京で実施される予定の万国博のパビリオンに紛れ込ませて発進の日をまっている。
「ギガ炉」を運転させる秘伝を代々受け継いでいる家系の少年ネオや、「深洲」の敵である「ゼロ艦隊」などが入り乱れ、東京を救うために激しい戦いが始まる。
破天荒な物語にしたいという作者の気持ちはわかるのだ。でも、「快速號」が万能であることを読者に納得させるための手続きなんかは全てすっ飛ばされていたりするものだから、突如空を飛んだり海に潜ったりされるとかえって興醒めだったりするのだ。好き勝手と破天荒は違うのだ。戦前の少年小説ならともかく、現代ではちょっとつらいものがある。
「萬皇」は発進するがネオが持つカギを入手していないため「ギガ炉」は完全には発動しない。次巻以降で絶斗とは何者なのか、「深洲」や「ゼロ艦隊」の真の目的などが明らかにされていくのだろうが、いかにもそれらしい種明かしをちゃんとしてほしいものである。
(1998年10月10日読了)