小説ではなく、ホームズとワトスンの生い立ちから出会い、そして別れをドイルの「聖典」に即してたどった、ノンフィクション仕立ての研究本である。
ホームズの伝記は多々あり、特に「最後の事件」でホームズが死んでから「空家の冒険」で復活するまでの「空白期」などは研究者によって解釈が異なったりするのが面白いところなのだが、本書ではあくまで「聖典」の記述を正しいものとしてそこで彼が行っていたことの真の目的を探るという形をとっている。
唯一、「聖典」に記載されていないワトスンの二度目の妻についてのみ、著者は大胆な推測をしている。意外な人物であるが、ワトスンの好みなどを考えるとなんとなく納得できた。
著者はミステリ作家でホームズのパスティーシュもかなり書いている。3冊の短編集が訳出されていて、私も読んだけれどなかなか面白かった。そんな著者だから、本書も完成度の高い読み物になっている。ホームズ愛好家なら一度は読んでおきたい本だと思う。
ところで、困ったのは、私は全短編を新潮文庫の延原謙訳で読んで、訳題もそちらで慣れ親しんでいる。たいていの研究本もそれで統一されているのだ。しかし、ここでは創元推理文庫版の阿部知二訳と深町眞理子訳のものを使用していて、これが微妙に違うので戸惑ったりしたのだ。本書は創元推理文庫から出ている本なのだから仕方ないけれど。
(1998年10月25日読了)