著者はソプラノ歌手で、実は、私、ファンなんです。
必ず自筆譜にあたり、唱歌や歌謡曲なども音楽的価値の高いものとして見つめ直し、何枚もの優れたCDを録音している。そのような実践でも、「日本の歌」は正しい言葉の発音に基づいて歌われるべきだという主張を貫いている。
本書では楽譜や歌詞の改作などの実例を挙げながら、これまでの主張をより明確にまとめあげたものである。自筆譜、初版の楽譜、さらにはSP録音での歌手の歌い方などにもあたりながら「日本の歌」がいかに「言葉」に対して無自覚であるかを実証していく。
万葉仮名などにもあたって日本語の発音の変遷をたどった上での深い考察や、社会における「歌」のあり方にまで踏み込んでいる。著者の主張はそれらが実践に裏打ちされたものだけに説得力がある。
なにもそこまで、というところまで細かくチェックしているのだが、それも「うた」や「ことば」に無自覚なものにはかなり厳しく主張しなければわかってもらえないだろうという思いからきているように感じられた。
いささか過激な印象も与えるが、日本語論としても傾聴に値するのではないだろうか。
(1998年11月25日読了)