読書感想文


悪魔の国からこっちに丁稚 上
L・スプレイグ・ディ・キャンプ著
田中哲弥訳
メディアワークス電撃文庫
1997年4月25日第1刷
定価550円

 ディ・キャンプのファンタジーの翻案。だいたい「悪魔の丁稚」という語感からして、訳者のセンスが出ているではありませんか。
 ストーリーは、悪魔が鉄を仕入れるその交換として人間の世界に行って使役される、というもの。丁稚奉公というのとは少し違うぞ。魔法使いの使用人をして失敗し、サーカスに売り飛ばされ(「鉄腕アトム」みたい)、そして地下都市イールの女主人のもとへ。そこに攻めてきたのが食人部族。援軍を呼びに悪魔ズドムはやらされる。ここまでが上巻。
 おそらく原作も、悪魔ズドムの失敗談をコミカルに描いたものなんだろうが、たぶん伝統的なファンタジーの手法にのっとっているのに違いない。しかし、訳者は訳者は地の文で原作者にツッコミをいれてみたり、感想を書いてみたりと遊びまくっている。これはだからたくまずしてファンタジー的なものへの一般人の「そんな奴おらへんやろ」という批評になってたりして、そこが魅力でもある。どこが原作なのか訳者が勝手に書いたところなのか、よくわからないのだ。これは訳者田中哲弥の作品だということもできるだろう。
 よく考えたら、昔は子ども向きの翻案なんて原作にないことがいっぱい書いてあってそれが面白かったものだ。だから本書は翻案の王道をいっているのだ。ほんまか。

(1998年12月12日読了)


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