民族学者の己一郎は巫女の家系をたずねに宮崎へいく。過疎の村で見つけたウロボロスを想起させる文様と神代文字の入った石を発見。その石が地震で動いたあとに泉が湧き出る。村長はその水を名水として売り出しテーマパークを作って村起こしをしようとする。しかし、その水は飲んだものを餓鬼と変える不思議な力を持っていた。禍つ神を解放させまいと、己一郎は巫女の血をひく少女由美とオカルト雑誌の編集者戸隠らでこの水の謎を探り村長の計画を阻止しようとするが……。
これは見事な伝奇SFである。かつて「石の血脈」を読んだ時に感じたのと同じような興奮を持って読み終えた。
登場人物の多彩さ、神話と現代的な問題のからめ方など、細かなところまで目が行き届いている上に、全体を貫くテーマがしっかりしている。次はどうなるのだろうとわくわくしながらページをめくらせる息もつかせぬ展開もうまい。あとで読み返すと二、三気になるところも出てはくるのだが、読んでいる間はそれを感じさせなかった。それだけ作品の持つパワーが強いということなのだ。
これは「石の血脈」に匹敵する伝奇SFの傑作ではなかろうか。
伝奇小説ファンなら必読、そうでない人にもお薦めの一冊。
(1998年12月22日読了)