ハートウォーミングなSF小品を3編収録した大人のための寓話集。
表題作「鍋が笑う」は、スペースコロニーに欠陥鍋の回収にいったサラリーマンの話。そのコロニーは古くて人々は牧歌的な生活をしている。意識を持った鍋たちは人々の生活に溶け込み、なくてはならない存在になっていた。全てを管理された社会からやってきた男が少しずつ自分の意志で行動するようになる様が優しい視点で描かれている。
「背中の女」は貴重な宝石を取るために背中に蟲を寄生させる男の話。女性の人格を持った蟲と男は少しずつ心を通わせていくのだが……。ほろ苦さを感じさせる佳品。
「リアの森」は地下社会で管理下に置かれた少年が、その社会のエネルギー源として育てられた少女と出会い、恋をする話。少年の淡い恋情が次第に強くなり、ついに少女とともに地上へ脱出しようとする。地上で二人が見たものは……。
いずれも管理社会や金が全てといった現代の閉息した状況をより誇張し、そこから脱出していくものたちの心情をストレートに描いている。メッセージがはっきりしているところなど、「寓話」の惹句にふさわしい。
話が甘ったるいとかきれいすぎるとか、そんな感想もないではないが、こういう話を書ける作家というのは貴重だと思う。こういうホロリとさせる話に私はちょっと弱いのです。
もう少しひねりをきかせてほしいところもあるのだけれど、そうなると作品全体の雰囲気を壊してしまうような気もするし。難しいところだ。
あとがきによるとSFと銘打つと売れないので「寓話」にしたそうだ。SFファンとしては寂しいところだけれど、本書の場合、確かに「SF」を前面に押し出すよりも「大人のための童話」みたいな位置付けでいいのかもしれない。
(1998年12月23日読了)