愛娘を誘拐、惨殺され、生きる気力を失い妻とも別れた人気エッセイスト、草薙良輔。彼は風俗ルポの仕事などで糊口をしのいでいたが、かつての担当であった編集者、泉の勧めで小説を書き始める。「屍の王」と題されたその小説をめぐり、次々と人が死んでいく。それでも謎の電話に背中を押されるようにして良輔は小説を書き続ける。取材の過程で、彼は自分の記憶している過去が全て存在していないということを知る。果たして、自分は何者なのか。小説が完成した時にはいったい何が起こるのだろうか。
これでもかこれでもかとくり出される腐乱死体の描写。行き先が見えてこない展開。かなりえげつない小説である。メタフィクションの体裁をとり、空想と現実が混濁したように描かれていく。その手腕は見事の一語に尽きる。その分、読む方もかなりエネルギーを使うことを要求された。終始重苦しい雰囲気にとらわれる。
恐い、というよりは、不気味、という形容が似合う、そんな小説といえるだろう。
肝心の主人公の正体が最後まで明かされないところなど、作者は意識してそうしているのだろうけれど、もう少し暗示する部分もほしかった。とはいえ、そうすると話が明晰になり過ぎてしまい、重苦しさの効果がなくなるか。難しいところだ。
いやしかし、神話とのからませ方など、再度読み返すとかなりしっかりした構造で明晰な解答も用意されているに違いないとは思う。しかし、それをすると最初の読後感が薄れてしまいそうだな。
(1998年12月26日読了)