「古事記」などにある、応神天皇から仁徳天皇への継承にまつわる物語に、日の神と水の神(蛇神)の争いという伝奇的要素を加え、ロマンティックな物語に仕上げている。これは全く立派な伝奇小説である。
作者は第17回パレットノベル大賞の佳作受賞者で、これがデビュー作という新人であるが、題材の扱い方や展開のさせ方など、かなりの力を持っていると感じた。
倭国の都、大和で土着の国「ワ」と外来の国「ヤマト」の争いに終止符を打ち、大王として君臨する誉田大王の世。その大使である稚彦王子は、巫女の血をひき霊力を持つ。ある夜、王子は、雑霊を呼び寄せ自分の体にとりこもうとする少女と出会う。彼女は何のためにそのような危険を犯しているのか。また、身体中を蛇の鱗で覆われた婢女の死体が発見され、ついには誉田大王も呪詛に倒れる。稚彦王子は日の神から倭の国を取り戻そうとする水神と向きあい、戦うことになる。
スケールの大きな作家に成長する可能性を秘めたデビュー作で、これからも古代史に材をとった優れた伝奇小説の書き手として活躍してくれるのではという期待を抱かせる。
枕詞の使い方が怪しかったりとか敵の正体を早く明かし過ぎるとか、課題もあるけれど、それは第2作以降で克服してもらえばよいこと。このまま順調にのびていってもらいたい新人の登場である。
(1998年12月29日読了)