吉本新喜劇にしても松竹新喜劇にしても、大阪の喜劇というのはベースは人情話なのだ。登場人物が変であったり体を張ったりしたギャグがあっても、根底には人の情というものに訴えかける作りになっているのだ。
本書は、栗原守という青年と彼に突然届けられた千両箱をめぐる、5つの独立した短編で構成されている。それぞれの短編に必ずどちらかがかかわっていて、それは千両箱をめぐって栗原君がヤクザにおどかされる話であったり、栗原君のちょっと変わった恋物語であったり、千両箱の由来を語る時代劇であったり、独裁政権と戦う男たちの戦いであったり、全ての話を強引にまとめてしまったりする。何のことかわからんかそうか。
語り口は作者おなじみの一人ボケツッコミであり、ギャグでつないでいたりするけれど、読み終えたらなんかしらんけど千両箱に関わる騒動の話にちゃんとなっているのである。そこらへんが、大阪の喜劇に通じるところである。
短編の中では大阪府知事の独裁を描く「マイ・ブルー・ヘヴン」が「名古屋の逆襲」(高井信)とよく似た設定なのだが、読み比べると同じようなネタでも大阪と名古屋ではこんなに違うかと感心した。
あと、「大久保町」シリーズに登場した寺尾、マキムラマキちゃん、やはり名前だけで正体のわからない毛利新蔵といったところが役柄そのままで再登場する。なんだか手塚治虫のスターシステムみたいで、すでに田中哲弥ワールドというものが形成されているのであった。
全体の構成はなんだかでこぼこしていて何のこっちゃようわからんという不思議な小説ではあるが、強引に読者を引っぱっていく馬力というものが感じられる。ちょっと読者を選ぶかもしれないが。
私としては往年の筒井康隆や小林信彦が書いていたようなギャグの積み重ねで一つの話が形成されていくというようなものをもっと書いてほしいと期待している。
(1998年12月27日読了)