読書感想文


カルタゴの運命
眉村卓著
新人物往来社
1998年11月25日第1刷
定価2800円

 ハードカバー845ページの大著。
 フリーターの松田裕は風変わりな求人広告を見て「人間文化研究所」の面接を受ける。採用された仕事は、ポエニ戦争時のカルタゴにタイムワープして、歴史改変の補助員をするということだった。松田は、昭和21年から連れてこられた帝大生、飯島とともに歴史に介入する。しかし、二人の考え方はかなりかけ離れており、常に反目し合うのである。
 彼らの雇い主はどうやら人間とは別な存在らしく、ゲームとし厳しいルールに基づいて歴史を改変していた。補助員たちや正規メンバーたちはカルタゴとローマのそれぞれについて工作を始める。松田はハンニバル暗殺の阻止するために、マズダと名乗ってハンニバルに接触を試みる。
 歴史改変をするならば、ちゃんと一定のルールを作って理屈づけをしていくべきだという作者の姿勢を強く感じる。そして、「歴史とは」「人間とは」「時間とは」という大きなテーマを歴史改変を通じて考えていく。ここらあたりは第1世代のSF作家らしいこだわりようだろう。数多く生み出されている架空戦記に対し、歴史改変がいかに重いことかを主張しているようにも読める。
 ただ、舞台があまりなじみのない時代と場所であることや歴史雑誌の連載ということもあるのだろう、とにかく説明が多い。本文のかなりの部分を説明に費やしている。その細かさや理屈づけが回りくどさを感じさせ、いくぶん退屈でさえある。作者がもともとそういう書き方をする作家であることは承知してはいたのだが。
 とはいえ、歴史改変に対する真摯さというものを感じさせる労作であることは間違いない。

(1999年1月15日読了)


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