読書感想文


斬魔京都変
石田一著
朝日ソノラマ文庫
1999年1月31日第1刷
定価510円

 現在、地球上に生息する生物が発生する以前より、全く違った生命体が存在していた。人々は、それらの記憶を神話や伝説に語り伝えた。悪魔や神と呼ばれるものがそうである。
 京都の鞍馬山の麓にそれらの血を引く一族がいて、琵琶湖底に眠る祖先である怪物を起こそうとしてる。それを防ごうと、安倍晴明の命を受けた者たちと「斬魔刀」を奉じてきた神堂一族、江戸時代に怪物を倒すために渡来した西洋人の子孫である田崎とその孫ジェシカたちが立ち上がる。
 怪物復活の生贄に選ばれたのは、東京にある大学の「超心理研究会」というサークルが企画した「京都魔界ツアー」一行。メンバーの一人で少し気の弱い大学生、佐原昭彦(このネーミングは東宝の特撮映画で活躍した佐原健二と平田昭彦の合成か?)は、密かに恋する後輩、水野利佳とともにツアーに参加し、怪物と対峙することになる。神堂一族の若者、神堂竜也やジェシカたちといっしょに捕らわれた利佳を救い出し怪物を再び封じなければならない。隠された利佳の秘密とは。怪物を封じることができるのか。
 作者は「ホラーワールド」「日本版ファンゴリア」などの発行を手がけてきた人で、これが作家デビューとなる。ホラー・アクションのツボを心得ていて、クトゥルーを思わせる設定で西洋のホラーと日本の伝奇を融合させようとした意欲作だ。主人公の昭彦がちょっと純情すぎないか。古風な青春小説の趣があるが、ヤングアダルトであることをかなり意識した作りになっているということか。また、もっと怪物を京都の一つも破壊するほど大暴れさせてほしかった。そこらへんが手探りをしながら書いたというような印象を与えるところだ。
 もっとも、シリーズ化に耐え得る設定であり、おそらく満を持してのデビューであろうから、今後の執筆活動には期待大。大人向けの濃いホラー・アクションを書いてほしいものである。

(1999年1月24日読了)


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