読書感想文


宝珠、紅に染まるとき
退魔師鬼十郎
市川丈夫著
富士見ファンタジア文庫
1999年1月25日第1刷
定価660円

 第10回ファンタジア長編小説大賞準入選作。和風異世界ファンタジーといったところか。
 ある大陸にある雲州の太守より姫の護衛を依頼された退魔師、葵鬼十郎。男装をしているが実は女性。女性であることからくるすきをつかれないようにと、女性であることを捨てているのだ。姫は隣国の然州に嫁いでいく。その道中、姫を狙うのは最強の呪神、黒鶴。雲州太守の守神と伝えられる黒鶴がなぜ姫を狙うのか。
 道中に加わったのは、呪神を操る呪神使いの蛇骨丸とその師の尼僧、宝蔵院。蛇骨丸は女装しているが、実は男性。本来は敵対するはずの退魔師と呪神使いだが、姫の命を守るために協力しなければならなくなる。鬼十郎たちは黒鶴とその配下の呪神たちの魔手から姫を守り切ることができるのか。
 男装の女性と女装の男性のコンビといういささか倒錯したキャラクターが主人公だが、奇をてらった感じはしなくはないものの、そのキャラクター造形はなかなかいいのではないか。バラエティに富んだ呪神たちのもアイデアをぎっしりと詰め込んだ感じで面白い。また、ストーリー構成や無理のない展開など、新人のデビュー作としてはかなり高い水準にあると思う。
 あとがきによると、現実の歴史にからませた本格伝奇小説を書こうとしていたのだが、時代考証をしているうちにがんじがらめになってしまい、異世界ファンタジーにしたとのこと。そのため、榊原康政、塚原朴伝など歴史上の人物の名前が残ってしまっている。どうせならそれも架空の人名に書き直した方がよかったのではないかな。
 私としては時代考証が多少いいかげんになっても時代伝奇小説として完成させてほしかった。よくできた伝奇小説というものは、虚実がないまぜになったところにその魅力かあるのだから。いずれ本格的な時代伝奇小説に挑戦してほしい新人の登場である。

(1999年1月29日読了)


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