読書感想文


異本 西遊記
光瀬龍著
角川春樹事務所 ハルキ・ノベルス
1999年2月8日第1刷
定価933円

 光瀬版西遊記は舞台を古代に移し、唐の皇帝ではなく弥勒王がサマルカンドへ百科事典購入のために使節を送るというユニークな設定。三蔵も女性の官吏、蘭花で、沙悟浄も蘭花を姉と慕う女性の河童。三蔵を女性が演じるのは夏目雅子以来TVの慣習となった感があるが、悟浄が女性というのは珍しい。悟浄というのは西遊記の従者では目立たない存在で、アニメ「悟空の大冒険」では金掘りの爺さんだったりいろいろと苦労してるけど、女性ときましたか。
 道中はロプ・ノール湖など実際の地理や風俗を巧みに織り込み、原典にないアイデアをふんだんに盛り込んでいる。原典に登場する妖怪も独自の解釈で登場させているから、原典を読んでいるとなお楽しい。
 西遊記を使って現代社会の批判をしたのは邱永漢だったが(中公文庫・絶版)この西遊記にもそういった側面はある。そのような部分も含めて、西遊記をうまく消化しユニークな物語に再構成しているといえるだろう。理屈抜きで楽しく読める。
 ただ、光瀬SFのファン(特に最近の文庫復刊で光瀬ファンになったというような人)はちょっと面喰らうかもしれない。光瀬版「宮本武蔵」あたりを読んだことのある人ならそうでもないとは思うけれど。

(1999年1月31日読了)


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