若くから三井物産の社員として戦前のほとんどを海外で過ごし、合理的な思考を身につけ、晩年78歳で国鉄総裁となった財界人、石田禮助。表題の「粗にして野だが卑ではない」という言葉は、彼が自己紹介で使ったもの。この人物の人柄を一言で表したものと作者は考えたのだろう。石田という人物の矜持の高さが伝わってくる。
評伝であるから、主人公はかなり美化されていると考えて割り引いて読んでも、明治生まれの男のダンディズムというものを感じさせる。私心なくずけずけとものを言い、不思議な魅力で周囲を心服させていく。日本社会の中では異質な人物であるが、そういう人物を思い切ってトップに登用していた時代もあったのだ。政治家、官僚、そして労働組合と石田の戦う相手は多かったが、ここで見られるそれらの体質は40年近くたった今もたいして変わっていないように思える。
(1999年2月14日読了)