著者はこれまでも歴史上「天皇」が果たしてきた役割について、足利義満、織田信長などとの関わりなど様々な角度から解明を試みてきた。特に、足利義満が天皇位を自分の嫡子に継承させて皇位を簒奪しようとしていたという指摘は、この著者の研究で知ったものだ。ミステリ作家の伊沢元彦がまるで自分が発見したかのようなタイトルの著作を出していたけれど。
さて、本書はその著者が古代から現代までの天皇の役割を通史として概括したもの。天皇が平安朝以降完全に「象徴」として存在してきたことを再確認し、また、象徴としての天皇を利用するために武家らが「押込」という監禁拉致の方法で政権を握るようになった経緯をたどる。日本が中国などと違い政権交代に際して「処刑」という方法をとる例が非常に少ない国であったということを指摘している。
本書はいわば今谷「天皇研究」のこれまでのもののまとめともいえる内容で、今後どのような「天皇」観を導き出していくにしろ、本書が一つの里程標になるということになるだろう。
(1999年3月20日読了)